「広報に正解はない」広報対談 第1回 スペースマーケット伊藤亜美奈さん
ギークスの広報・サスティナビリティ推進部では3人のメンバーそれぞれが、広報・インナーコミュニケーション・サスティナビリティ推進という業務領域を担当しています。
リリース、ブログ、レポート、イベントなど、様々なアウトプットを社内外に発信していくために、それぞれがネットワークを広げながらインプットの機会を増やし、情報のアップデートやアイデアのブラッシュアップ、多様な価値観の形成を進めています。
今回から「広報対談」として、様々な企業の広報担当者との対話を通じ、広報担当者として役立つ視点や考え方などをまとめつつ、私たちのこれまでとこれからを整理する記事をまとめることにしました。
第1回のゲストは、株式会社スペースマーケットのPRを務める伊藤さんにお越しいただき、広報を担当する荒川と対談しました。
広報担当者はどうやってネットワークを広げていくのか?
ー企業の広報担当同士の対談企画である「広報対談」。記念すべき初回は、スペースマーケットの伊藤さんにお越しいただきました。本当にありがとうございます。まずはお二人が知り合ったきっかけを教えてください。
伊藤さん:「渋谷広報コミュニティ」というイベントで荒川さんとご一緒したのが最初です。渋谷で働く広報担当者のコミュニティを立ち上げる際、以前から、Xのアカウントで荒川さんをフォローしていて、一度お会いしたいなと思っていたので、お声がけしたんです。
荒川:昨年の3月にXのアカウントを立ち上げて以来、たくさんの広報担当者の方々とコミュニケーションを交わすようになりました。その中で、フォロワー数が多く、様々なイベントの企画を行っている伊藤さんの投稿や活動をとても参考にしていたので、「渋谷広報コミュニティ」にお誘いいただいたときに、秒で「参加します」って手を挙げたんです。
伊藤さん:初めて会ったとは思えないくらい、あっという間に意気投合しましたね。
荒川:広報担当者同士、SNSで繋がっていることが多いので、お会いしたことがなくても、メッセージを取り交わしたり、投稿にコメントを入れたり、様々な交流をしているケースがあります。「やっとお会いできましたね」という会話から仲良くなることが多いですね。
ーSNSやイベントの話が出てきましたが、ネットワークを広げるための活動は多いんですか。
伊藤さん:私はXでのつながりが中心ですね。PR担当が私一人になったタイミングで「企画やアイデアの壁打ち相手が欲しい」「広報仲間が欲しい」という横のつながりを目的に、Xのアカウントを開設しました。Xのポストなどで流れてくるイベントに参加して繋がった方々や自分でイベントを企画して参加いただいた方々とのコミュニケーションを通じて、ネットワークを広げています。
荒川:私は多いほうだと思います。100社限定のコミュニティである「若手広報担当者の会」や先ほど話題に上がった「渋谷広報コミュニティ」に参加していますし、ギークスの本社が入居しているWeWork渋谷スクランブルスクエアにも「広報担当者の会」があり、活動しています。毎日のようにいずれかのコミュニティの活動はしていますね。Xでも毎朝の「おはようございます、今日も一日頑張りましょう」という投稿を欠かさないですし、忙しくさせていただいております(笑)。
ーネットワークを広げること自体も広報の仕事なんですね。
伊藤さん:SNSやイベントを通じて多くの方と出会う中で、自社を知っていただく意味でもネットワークは広いほうがいいなと感じるようになりました。情報収集や横のつながりづくりを目的にSNSをスタートしましたが、それがマーケティングや採用活動にもポジティブな影響を与えていっていると思います。
荒川:私の場合は、コミュニティやイベントへの参加、SNSのマネジメントはメディア関係者とのつながりを構築する目的でもあります。ニュースを常に探している方々でもあるので、私たちがいるところに足を運んでくれる場合もあります。広報担当者の横のつながりだけでなく、メディアリレーションとしても活用していますね。
ビジネスモデルが似ていると、悩みや不安も共通するのか?
ースペースマーケットさんもギークスもプラットフォームビジネスという点で似ている部分があるように思います。
伊藤さん:そうですね。スペースマーケットのビジネスモデルは、スペースを借りたい方と貸したい方をつなぐプラットフォームビジネスです。「スペースシェアをあたりまえに」というミッションを掲げ、スペースシェアという新しい文化の創造に取り組んでいます。
荒川:ギークスは企業とITフリーランスをつなぐビジネスモデルです。IT人材事業の事業ミッションが「働き方の新しい『当たり前』をつくる」なので、ミッションも共通性がありますね。また、事業内容を紹介する際に「技術リソースのシェアリングプラットフォーム」という表現を使うこともあるので、「シェア」という切り口も似ているなと感じました。
伊藤さん:お互いシェアリングエコノミーを推進する企業同士でもあるわけですね。当社は、空間のシェアという文脈から代表の重松がシェアリングエコノミー協会を立ち上げ、また、スペースシェア総研というスペースシェア専門のシンクタンクを設立しています。持続可能な社会の実現に向けて環境負荷軽減などの社会貢献性においても、このビジネスモデルは活きると思っています。
荒川:「IT人材不足という社会課題の解決」というテーマを中心に、これまでギークスの事業の社会貢献性を伝えていましたが、「シェアリングエコノミー」という切り口からも伝えられそうですね。素敵なヒント、ありがとうございます(笑)。
ービジネスモデルに類似性があると、広報担当者としての課題や悩みなども共通しそうですか。
伊藤さん:どうでしょうね。ビジネスモデルに起因した課題や悩みはあると思いますが、広報担当者同士で共通課題として挙げられるのは、メディアリレーションであったり、プレスリリースなどのクオリティであったり、SNS運用であったりするので、事業内容が前提ではないかもしれません。もちろん、toBのビジネスモデルだからメディアになかなか取り上げてもらいづらいよねとか、SNSの運用が難しいよねとか、担当者同士、共感性が高くなることはあると思いますが。
荒川:伊藤さんは採用広報も兼ねているので、採用広報の悩みもあると思いますし、私自身はイベントの企画などにも携わっているので、その部分の悩みもあります。PR、IR、採用広報、社内広報など、広報担当者と一括りにしても、担当している領域がそれぞれ違う場合もあるので「担当領域×事業特性×悩みのテーマ」で課題と解決策が整理できそうな気がしますね。
ーお二人とも、直近での課題や悩みってどういったものがあるんですか。
伊藤さん:私の場合は、スペースシェアというあたらしい文化を創る事業として、サービスの信頼性や安全性、防犯面の対策などをどのように伝えていくかという点ですね。メディアから取材を受けるときにも必ず聞かれる点ではありますし、CtoCのサービスである以上、担保しなくてはいけない部分ではあるので、どのように伝えていけばより伝わるのかは常に考えています。
荒川:企業とITフリーランスをつなぐビジネスモデルだけあって、発信すべき情報の中にも企業目線や企業向けのもの、ITフリーランス目線やITフリーランス向けのものがあります。片方にとってメリットとなる情報がもう一方にはデメリットになりえるかもしれないというリスクをどのように解消していくかが悩みです。コーポレート広報とサービス広報のどちらも担っているからこそのジレンマかもしれませんが。
伊藤さん:広報はニュースだけを発信すればいいわけではないですし、メディア関係者、クライアント企業の担当者、投資家など多様なステークホルダーとのリレーション構築でもあるので、「誰に何を届けたいのか」、「届けた先でどう思われたいのか」を常に意識してコミュニケーションするのは難しいですよね。当社では、一過性のPR施策で話題を集めるのではなく、会社としての考え方を誠実に発信し、そこに共感してくれる人を増やす。ステークホルダーと長期的な信頼関係を構築していくことを重視しています。それが難しさでもあり、やりがいでもありますね。
広報のKPIはどのように設定しているのか?
ー多岐に渡る役割を担っているお二人ですが、それぞれ部門や個人の目標、KPIなどはどのように設定しているのですか。
伊藤さん:当社の場合、PRの目的を2つ設定しています。それぞれ、採用につながる認知向上・会社や事業認識を広げた上での社会的信頼の獲得です。この2つを達成するために目標を設定するイメージです。
今は特に、採用につながる中長期戦略としての広報PRに注力しています。目標設定では、採用ジャーニーから逆算してフェーズごとにPRが作用する施策を考えます。まず、採用候補者のアトラクトや採用力強化につながる目標です。発信するコンテンツ数やnoteの記事数、SNSの発信などアクションベースのKPIを設定しています。
また、認知・信頼につなげる目標として、プレスリリース数や記事掲載数は追わず、メディアリレーションズ数をKPIに設定しています。このKPIに至るまでにはさまざまなロジックがありますが、主には露出の質を担保するためです。目標設定においては、PR活動を定期的にKPTで振り返り、ゴールから逆算したアクションとKPI設定ができているかを確認した上でアップデートしています。達成に向けては、時流に合わせた情報、メディアの方が追っているトピックスなどを用意した上でアプローチして、アポイントを取って…といったことも行っていますね。
荒川:メディアリレーションからのポイント換算は、定量的な目標設定が難しい職種である広報職にとって、営業活動の結果に紐づいた目標設定と進捗管理ができるので、活用している話を割と聞くのですが、当社ではうまく機能しなかったんですよね。
toBのビジネスモデルだと、そもそもニュース性の高い情報発信が限定的になってしまうところがあって、ポイント換算できるところまでニュースの量が追いつかなかった。だからといって、メディアへの企画提案数を追う形にしたら、企業活動や事業活動とは関係ないアイデアが増えたり…と、目標設定の紆余曲折がありました。
今は、ギークスとしての取り組みにエッジが立っていればメディア関係者が興味を持ってくれるだろうという仮説のもと、尖らせるフェーズという認識での目標設定をしています。例えば、地方への商圏拡大を意図する地方営業部と足並みを揃え、地方でのイベント企画とローカルメディアの誘致を目標の一つとするなど、「事業推進・イベント企画・メディア誘致」をセットにしてプロジェクトを立ち上げて動かすことを目標としています。
地方へのアプローチだけでなく、サスティナビリティ推進やグループ企業の営業支援など、テーマは多種多様ですね。広報というよりは経営企画や事業開発のような視点も必要になってきました。
伊藤さん:プレスリリースは以前はメディア関係者が読むものだったのが、PR TIMESなどのリリースのプラットフォームサイトが生まれたことで、投資家、消費者、求職者、従業員など様々な属性の方々が読むようになって、企業全体を俯瞰して情報を発信していくことが求められるようになってきているので、経営視点の有無は重要になってきていますよね。
荒川:社内の情報もリアルタイムに拾っていかないといけないですし、社外の情報もトレンドや未来予測、競合情報にメディア関係者の関心事など、集めないといけないものが多いし、広い。広報職ってこんなに大変なんでしたっけ?って思ってます(笑)。
ー広報の仕事って華やかなイメージというか、キラキラしているイメージが根強い印象を受けますが…
荒川:そういうイメージの世界だと思っていたこともありましたが、真逆かもしれません。営業職のときもあれば、物書きのときもありますし、経営者の右腕のときもある。そして、基本的には行動がすべてなので、泥臭く汗をかく仕事ですね。
伊藤さん:様々なステークホルダーとの関わりがあるからこそ華やかに見えるのかもしれませんね。でもその分、コミュニケーションや調整が多い業務なので実際は泥臭いですよね(笑)。少し話が逸れるんですが、社内向けにPR勉強会をやったんです。パブリックリレーションズとは何か、という基本の話から、プレスリリースを書いてもらうワークショップや、メディアの方々に興味を持ってもらうためにどのような情報を発信し、どのような文章を書くかというテーマは全社員のPRへの理解と、提供する情報の価値をあげるための視点を身につけていただける良い機会になりました。
また、今後やってみたいこととして、他部署から依頼される「情報発信してほしい」ネタに対して、新規性やユニーク性などPR力を数値化・可視化したチャートを作りたいです。現場で「いける!」と思ったネタであっても、実はそんなことはないというようなギャップに気づいてもらえたらいいなと。 マーケや営業の方にもPR的思考を持ってもらった上で、「じゃあこの素材をどう料理しようか」と一緒に考えていくのも我々の仕事だと思っています。
広報としての今後の目標はなにか。
ー対談も残すところわずかというタイミングで今更なのですが、お二人が広報という仕事に就こうと思ったきっかけや理由を教えてください。
伊藤さん:海外の大学でマーケティングを学んでいたんですが、その頃は広告代理店に入りたいなと思っていたんです。就職活動を見据えて情報収集していく中で、グローバルな目線でいうと市場規模はPR業界のほうが大きく、日本においてはこれからPR市場の拡大と重要性が増してくるという話を聞いて、わくわくしたんです。世の中を変えていく仕事に携われるのではないかと思って、新卒でPR会社に進み、1社挟んで、現職です。
荒川:何かを伝えるという仕事に興味を持って、大学ではメディア社会学を専攻していました。自分を主語に情報発信していくというよりは、裏方として誰かが伝えたい情報を整理し、発信していくことに向いているなと思って、広報職を志しました。自分が好きなもので、人の生活が豊かになることにつながればという想いもあったので、広報一択。最初に入った会社はアパレルだったんですが、新卒全員、最初は販売店の現場配属だったので、広報への配属を確実なものにするために、どういった成果を挙げればいいのか人事担当者に直接聞きにいき、その目標を愚直に達成していったほど、広報というキャリアに強く憧れていましたね(笑)。
ーでは最後に、今後の目標やビジョンなどを教えてください。
伊藤さん:私自身、採用担当も兼務していることもあり、広報PRの現場と採用の現場、それぞれから学んだことを双方向に還元していきたいと思っています。両軸でやっているからこそ、作用するものもあると思うので。知識と経験の幅を広げていくことで、経営課題に対して求められる成果を生み出していきたいですね。また、PRの形は時代とともにどんどん変化してきていると思います。会社と社会の架け橋となる存在として、世の中のトレンドを享受しながら、広報パーソンとして柔軟にアップデートしていきたいです。
荒川:メディアの方々がIT業界や人材業界で知りたいことがあれば、「とりあえずギークスの荒川に話を聞いてみよう」と想起してもらえるような広報パーソンになれたらと思っています。コーポレート広報・サービス広報のどちらも担っているからこそ、業界全体のトレンドや情報のインプットを意識し、さまざまな切り口でPRすることができます。また、たくさんの企業の広報の方々との関係性も深められてきているので、一緒にイベントの企画などできると楽しそうだなと思っています!ギークスという会社をより多くの方に知っていただけるよう尽力していきたいですね。
ーありがとうございました!
対談を終えて
「広報に正解はない」という言葉をよく耳にするように、類似したビジネスモデルであっても、手法は1つではありません。伊藤さんとの対談を経て再認識できましたし、自分にもまだできることはあると強く感じました。
また、「広報のお悩みあるある」として話題に上がる「KPIの設定」について、それぞれに会社の色が出ているので興味深いなと思いました。悩める広報さんにとっても参考になるのではないでしょうか。
インプット、アウトプットの両方が必要になる職種だからこそ、積極的に外に出ていろんな方とお話しすることは大切だと改めて感じた対談でした。貴重な機会をありがとうございました!